毎年11月頃から翌年の4月にかけて、ノロウイルスの感染を原因とするウイルス性のおう吐・下痢症が流行します。特に保育園、幼稚園、小学校等の子供達が集団生活を行っている施設では、内部で人から人に感染し、爆発的に流行することがあります。この人から人への感染力はきわめて強力です。食習慣の問題もあって、毎年発生するノロウイルス感染の流行を阻止することは残念ながら不可能ですが、その流行を最小限に食い止めるために、ノロウイルス感染症の症状・治療法、予防方法、注意点等を以下にあげてみました。
主な症状は吐き気、おう吐及び下痢です。通常は便に血液は混じりません。あまり高い熱とならないことが多いです。小児ではおう吐が多く、おう吐・下痢は一日数回からひどい時には10回以上の時もあります。感染してから発病するまでの「潜伏期間」は短くて10数時間~数日であり、症状の持続する期間も数時間~数日と短期間です。(元々他の病気があり、大きく体力が低下している等がなければ、重症になって長い間入院しないといけないということはまずありません。しかしおう吐した物を喉に詰めて窒息することがありますので注意してください。)
ノロウイルス感染症に対する特効薬はありません。症状の持続する期間は短いですから、その間に脱水にならないように、できる限り水分の補給をすることが一番大切です。抗生物質は効果がありませんし、下痢の期間を遷延させることがあるので、ノロウイルス感染症に対しては使用しません。その他は吐き気止めや整腸剤などの薬を使用する対症療法が一般的です。(下痢が長引く場合には下痢止めの薬を投与することもありますが、最初から用いるべきではありません。)
ノロウイルスにはワクチンもなく、その感染を防ぐことは簡単ではありません。そして特に子ども達や高齢者には簡単に感染して発病します。最も重要で、効果的な予防方法は「流水・石けんによる手洗い」ですが他にも様々な注意すべきことがあります。
人によっては感染しても発病せずに、ノロウイルスを便から排出し続けている場合があります。保護者などの大人の方が知らないうちに子供にノロウイルスを感染させてしまう可能性は低くはありません。以下の注意点を守ってください。
ノロウイルス感染症の場合、そのおう吐物や下痢便には、ノロウイルスが大量に含まれています。そしてわずかな量のウイルスが体の中に入っただけで、容易に感染します。また、ノロウイルスは塩素系の消毒剤や家庭用漂白剤でなければ効果的な消毒はできません。取り扱いには注意が必要です。
処理:おう吐物や下痢便の処理をする前に、まず処理にあたる人以外の方を遠ざけてください。処理の際に吸い込むと感染してしまうおそれのある飛沫(ひまつ)が発生します。少なくとも他の人は約3m遠ざかってください。また、放っておくと感染が広がりますので、早く処理する必要があります。以下、処理の手順についての方法を記しておきます。
方法:マスク・手袋(この場合の手袋は清潔である必要はなく、丈夫であることが必要です)をしっかりと着用し、雑巾・タオル等で吐物・下痢便をしっかりとふき取ってください。眼鏡をしていない場合は、ゴーグルなどで目の防御をすることをお勧めします。拭き取った雑巾・タオルはビニール袋に入れて密封し、捨てることをお勧めします。拭き取りの際に飛沫が発生しますので、無防備な方々は絶対に近づけないでください。その後薄めた塩素系消毒剤(家庭用漂白剤では200倍程度)でおう吐物や下痢便のあった場所を中心に広めに消毒してください。※消毒剤の希釈の際も素手で行わずに手袋を用いましょう。
汚れた衣類など:おう吐物や下痢便などで汚れた衣類は、大きな感染源です。そのまま洗濯機で他の衣類と一緒に洗うと、洗濯槽内にノロウイルスが付着するだけではなく、他の衣類にもウイルスが付着してしまいます。おう吐物や下痢便で汚れた衣類は、マスクと手袋をした上でバケツや、たらいなどでまず水洗いし、更に塩素系消毒剤(200ppm以上)で消毒することをお勧めします。
学校、職場、施設内でノロウイルス感染によるおう吐・下痢症が発生しても、その最初の発端は家庭内での感染による場合が多いです。特に子どもや高齢者は健康な成人よりもずっとノロウイルスに感染し、発病しやすいですから、家庭内での注意が大切です。
1.最も重要な予防方法は手洗いです。帰宅時、食事前には、家族の方々全員が流水・石けんによる手洗いを行うようにしてください。
2.貝類の内臓を含んだ生食は時にノロウイルス感染の原因となることを知っておいてください。高齢者や乳幼児は避ける方が無難です。
3.調理や配膳は、充分に流水・石けんで手を洗ってから行ってください。
4.衣服や物品、おう吐物を洗い流した場所の消毒は次亜塩素酸系消毒剤(濃度は200ppm以上、家庭用漂白剤の場合は約200倍程度に薄めて)を使用してください。
※次亜塩素酸系消毒剤を使って、手指等の体の消毒をすることは絶対にやめてください。